「賃貸営業って売買より楽なんでしょ?」という誤解
「賃貸営業は売買より楽そうだよね」
不動産業界にいると、こんな言葉を聞くことがあります。
確かに、扱う金額は売買より小さい。でも、「楽」かどうかは別の話です。
私は売買仲介を3年、賃貸営業を5年経験しました。その経験から言えるのは、賃貸営業には賃貸営業ならではの大変さがあるということ。
一方で、賃貸営業だからこその「やりがい」や「メリット」もあります。
この記事では、賃貸営業の実態を包み隠さずお伝えします。これから賃貸営業を始める人、売買から賃貸への転職を考えている人の参考になれば幸いです。
賃貸営業の仕事内容
基本的な業務の流れ
賃貸営業の仕事は、大きく分けて4つのフェーズがあります。
1. 反響対応(来店誘導)
ポータルサイト(SUUMO、HOME'Sなど)からの問い合わせに対応し、来店を促します。
2. 接客(ヒアリング・内見)
お客様の希望条件をヒアリングし、物件を提案。実際に内見に連れていきます。
3. 申込・審査
気に入った物件があれば申込を受付。入居審査を進めます。
4. 契約・鍵渡し
審査が通れば契約。重要事項説明を行い、鍵をお渡しします。
1日のスケジュール例
| 時間 | 業務内容 |
|---|---|
| 9:30 | 出社、メールチェック |
| 10:00 | 反響対応(電話、メール) |
| 11:00 | 来店対応① |
| 12:00 | 昼休憩 |
| 13:00 | 内見① |
| 14:30 | 内見② |
| 16:00 | 申込対応、書類作成 |
| 17:00 | 来店対応② |
| 18:30 | 反響対応、事務作業 |
| 20:00 | 退社 |
繁忙期(1〜3月)は、1日5〜6組の接客をこなすこともあります。
売買仲介との違い
| 項目 | 賃貸営業 | 売買仲介 |
|---|---|---|
| 取引金額 | 数万円〜数十万円/月 | 数千万円〜数億円 |
| 契約までの期間 | 即日〜数週間 | 数ヶ月〜1年以上 |
| 1件あたりの報酬 | 家賃1ヶ月分程度 | 取引額の3%程度 |
| 接客数 | 1日3〜5組 | 週に数組 |
| 休日 | 水曜定休が多い | 火水休みが多い |
賃貸営業は「薄利多売」、売買仲介は「一発大きい」という特徴があります。
賃貸営業の年収相場
雇用形態別の年収
| 雇用形態 | 年収目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 正社員(大手) | 350〜500万円 | 基本給が高め、インセンティブ低め |
| 正社員(中小) | 280〜400万円 | 基本給低め、インセンティブ高め |
| 契約社員 | 250〜350万円 | 時給制の場合も |
| フランチャイズ | 300〜600万円 | 店舗による差が大きい |
インセンティブの仕組み
賃貸営業のインセンティブは、会社によって異なります。
よくあるパターン:
- 仲介手数料の10〜30%
- 1件あたり固定額(5,000円〜2万円)
- 目標達成ボーナス
例:家賃10万円の物件を成約した場合
- 仲介手数料:10万円(税別)
- インセンティブ(20%の場合):2万円
月に10件成約すれば、インセンティブだけで20万円。年間で240万円になります。
年収を上げる方法
1. 繁忙期に稼ぐ
1〜3月の繁忙期は、通常の2〜3倍の成約が見込めます。この時期に集中して稼ぐ人も多いです。
2. 法人契約を狙う
法人の社宅斡旋は、1件で複数戸の成約につながることも。単価は低くても、数で稼げます。
3. 売買も扱う会社に転職
賃貸と売買の両方を扱う会社なら、売買の成約で大きく稼ぐことも可能です。
賃貸営業が「きつい」と言われる理由
理由1:薄利多売のプレッシャー
売買仲介なら、月1件成約すれば数十万円〜数百万円のインセンティブ。でも賃貸営業は、月10件成約しても10〜30万円程度。
数字で見る違い:
- 売買:月1件 × 報酬50万円 = 50万円
- 賃貸:月10件 × 報酬2万円 = 20万円
同じ報酬を得るには、賃貸は圧倒的に「件数」が必要です。
理由2:繁忙期の忙しさ
1〜3月の繁忙期は、文字通り「殺人的」な忙しさです。
繁忙期の実態:
- 1日6〜8組の接客
- 休日出勤当たり前
- 夜10時、11時退社
- 体調を崩す人続出
この3ヶ月を乗り越えられるかどうかが、賃貸営業を続けられるかの分かれ目です。
理由3:お客様の質の幅が広い
賃貸のお客様は、売買に比べて「幅が広い」です。
いろいろなお客様:
- 初めての一人暮らしの学生
- 転勤で急いでいるサラリーマン
- 審査が通りにくい人
- クレームが多い人
「どんなお客様にも対応する」スキルが求められます。
理由4:審査落ちのストレス
せっかく申込をもらっても、審査に落ちることがあります。
審査落ちの主な理由:
- 収入が家賃の3倍未満
- 勤続年数が短い
- 過去の滞納歴
- 保証会社の基準に満たない
お客様に「審査が通りませんでした」と伝えるのは、精神的にきついものがあります。
理由5:成約率の低さ
賃貸営業の成約率は、一般的に20〜30%程度。
数字で見る現実:
- 来店10組 → 成約2〜3組
- 内見20件 → 成約2〜3件
「断られるのが当たり前」の世界です。メンタルの強さが求められます。
賃貸営業に向いている人
向いている人の特徴
1. スピード感がある人
賃貸営業は「即断即決」の世界。お客様が「いいな」と思った瞬間に申込をもらう必要があります。
2. 切り替えが早い人
断られても引きずらない。次のお客様に集中できる人が向いています。
3. 体力がある人
繁忙期は体力勝負。1日中動き回っても平気な体力が必要です。
4. 人と話すのが好きな人
1日に何組もの接客をするので、人と話すことが苦にならない人が向いています。
5. 細かい作業も厭わない人
契約書類の作成、鍵の手配など、事務作業も多い。営業だけでなく、事務作業も苦にならない人が向いています。
向いていない人の特徴
1. じっくり型の人
お客様との関係構築に時間をかけたい人は、売買仲介の方が向いているかもしれません。
2. 断られるのが苦手な人
成約率20〜30%ということは、70〜80%は断られるということ。断られることに慣れないと、続けるのは難しいです。
3. 体力に自信がない人
繁忙期の忙しさは、体力的にかなりきつい。体力に自信がない人は、売買や管理など、他の職種を検討した方がいいかもしれません。
賃貸営業のやりがい・メリット
メリット1:成果がすぐに出る
売買仲介は、成約まで数ヶ月〜1年かかることも。でも賃貸なら、出会った当日に成約することもあります。
「今日来たお客様が、今日申込してくれた」
この達成感は、賃貸営業ならではのものです。
メリット2:いろいろな人と出会える
学生、新社会人、転勤族、シニア、外国人...。賃貸営業は、さまざまな人と出会えます。
「人の人生の節目に立ち会える」
これも賃貸営業の魅力の一つです。
メリット3:未経験でも始めやすい
売買仲介に比べて、賃貸営業は未経験でも始めやすい傾向があります。
理由:
- 取引金額が小さいのでリスクが低い
- 契約までの期間が短いので経験を積みやすい
- マニュアル化されている会社が多い
「不動産営業を始めてみたい」という人には、入口として良い選択肢です。
メリット4:宅建の勉強になる
重要事項説明を繰り返すことで、宅建の知識が身につきます。
「働きながら宅建の勉強ができた」
という人も多いです。
賃貸営業からのキャリアパス
パターン1:売買仲介にステップアップ
賃貸で基礎を学んでから、売買仲介に転職するパターン。
メリット:
- 年収アップが見込める
- 大きな取引を経験できる
- キャリアの幅が広がる
注意点:
- 売買は賃貸より難易度が高い
- 成約までの期間が長い
- 収入が不安定になる可能性
パターン2:店長・マネージャーに昇進
賃貸営業を続けて、店長やマネージャーに昇進するパターン。
メリット:
- 安定した収入(固定給が上がる)
- マネジメント経験が積める
- 現場を離れられる
注意点:
- 店舗の数字に責任を持つ
- 部下の育成、管理が必要
- 現場より給料が下がることも
パターン3:不動産管理に転職
賃貸営業から、不動産管理会社に転職するパターン。
メリット:
- ノルマがない(または緩い)
- 土日休みの会社も多い
- 長く働ける
注意点:
- 年収は下がる傾向
- クレーム対応が多い
- やりがいを感じにくい人も
パターン4:他業界の営業に転職
賃貸営業で培ったスキルを活かして、他業界に転職するパターン。
転職しやすい業界:
- 人材業界
- 保険業界
- 通信業界
メリット:
- 働き方を変えられる
- 土日休みになれる
- 年収アップの可能性
よくある質問(FAQ)
Q. 賃貸営業は未経験でもできる?
できます。むしろ、不動産営業の入口として選ぶ人が多いです。ただし、コミュニケーション力と体力は必要です。
Q. 賃貸営業の離職率は高い?
高いです。特に繁忙期(1〜3月)を乗り越えられずに辞める人が多い。入社1年以内の離職率は30〜40%程度と言われています。
Q. 宅建は必要?
あると有利ですが、必須ではありません。重要事項説明は宅建士しかできないので、会社によっては宅建手当(月1〜3万円)が出ます。
Q. 女性でも賃貸営業はできる?
できます。むしろ、女性のお客様(特に一人暮らしの女性)には、女性の営業が好まれることも多いです。ただし、繁忙期の体力勝負は男女関係なくきついです。
まとめ
賃貸営業は、「売買より楽」というイメージがあるかもしれませんが、実際は賃貸ならではの大変さがあります。
きつい点:
- 薄利多売のプレッシャー
- 繁忙期の忙しさ
- 成約率の低さ
やりがい・メリット:
- 成果がすぐに出る
- いろいろな人と出会える
- 未経験でも始めやすい
「スピード感があって、切り替えが早くて、体力がある人」は賃貸営業に向いています。
逆に、「じっくり型で、断られるのが苦手な人」は、売買仲介や他の職種を検討した方がいいかもしれません。
自分の適性を見極めて、キャリアを選んでください。